秋冬は学生にとっては少し物足りない季節かもしれない。文化祭や体育祭といった大きな行事が終わってしまうと、新学年になるまで特に何もない。教員は口をそろえて勉強しろとしか言わないつまらない季節。
しかし、これを逆手に取ったかのように部活が忙しくなるのもこの時期だったりする。
「これからは12月末の冬季選手権大会に向けて、練習試合などが増えるから、けがをしないように。」
人間ストーブのように熱血漢の顧問が部員に激を入れる。もうジャージを着てもいいような季節なのに、選手は全員半袖半ズボン。野球部の丸刈りと同じくらいのルールなのかもしれない。
文化祭の翌々日の月曜日。昨日は部活も休みだったから三人で少し遊びに出かけていて、まだその疲れが取れてない。しかも、今日は授業を真剣に受けようとしたのでとにかく眠い。
「木戸、小森、ボールひろっとけ」
顧問から普段に増して厳しい声が飛ぶ。眠気で完全には頭が回っていないので、時々スパイクを足に浴びながらボールを集めてはかごに入れる。いつもだったら選手が自分で拾いに行くのに、と頭で愚痴る。
試合形式に近い練習が増えると、選手の休憩時間もマネージャー早住めなくなる。
「晴翔さん、悪いんだけどテーピング巻いてくれる?」
「いいよ、何したの?」
「カットミスって薬指やっちゃったんだよ~」
薬指を突き指したらしい大祐君の指にテーピングする。細い13mmのテープで指の付け根と末節を一周巻いてから、中節部分でクロスするようにテープを巻き付ける。
「あとは自分でやってくれる?」
19mmのテープを渡すと、ありがとなというと薬指をミイラにする。
こんな風に、けが人が増えるので常にテーピングやアイシングの準備にせわしなくなる。
「それぐらい自分でやればいいのに」
座って小指のテーピングを張りなおしている俊君がぼそっと言う。
「別に迷惑じゃないし、人に貼ってもらったほうがきれいにできるよ」
汗のついたボールをふきながら答えると、急に俊君が立ち上がった。
「じゃあ俺のもやってくれんの?」
ボールケースの下からタケノコみたいに現れた俊君に驚かされたので、少し御返しのつもりで返す。
「ちゃんとお願いしたらやってあげなくもないけど?」
私がそういうと、丁寧にテープとハサミも手渡しながらお願いしますと頭を垂れた。意外とからかいがいのある人だなと思いながら、さっきの大祐君みたいにテーピングしてあげる。
「あとはがんばって」
「ありがと」
顔を背けながらも、一応お礼を言ってくれた事がちょっとだけうれしかった。
サーブカットからサイドアウトを取る練習。比較的仕事が少ないので、ぼんやりとコートの中に目をやる。順番にメンバーが変わるので、スタメンに選ばれるためにそれぞれが個性を見せようと全力のプレーを見せてくれるので、いつも以上に迫力があった。
大祐君は苦手だったストレートを多少克服したようで、トスが伸びるとストレートを狙う。今のところは三本に一本はいいスパイクが決まるという感じだ。
俊君はBクイックを練習中ということで何度もセッターの先輩とタイミングの調節を繰り返している。打てないときは無理せずフェイントしたり、打てるコースをしっかり決めるので顧問も安心している様子だ。
彼らにレギュラーを奪われた二年生たちも何とか出場の機会をとれないかと、様々なアピールをした。バックレフトからのスパイク、レフトからの超インナー、マイナステンポのAクイック、どれをとっても格好いい。ただ、プレーばかりに気を取られると小森先輩からつつかれるので、ずっと見ているというわけにもいかなかったのが残念だった。
練習時間が残り30分になったところで紅白戦が行われることになった。しかも今日はレギュラー対Bチームということで、俊君と大祐君が同じコートに立っている。今日は仲良くプレーしてほしいなぁと思いつつ、練習道具たちを抱えて倉庫に運ぶ。
あらかた不要なものの片づけが終わるころには、試合が中盤に入っていた。小森先輩の横で試合の解説を聞きながらスコアボードを書く。小森先輩は漫画からバレーボールに興味をもって、そこから男子バレーの世界大会などはすべての試合を見るぐらいにははまったらしい。そのため、実は部活内でも戦術やふぉむなどには詳しい。
私にとってはただのミスにしか見えない一点でも、小森先輩の解説を聞くと奪われたいってんだとわかる。それぐらい知識の差がある私たちでも、一つだけ共通してわかることがあった。
「相変わらず仲が悪いですね」
「本当にね。同じコートに立つんだから、もう少し仲良くしてもいいものなのに」
氷と炎の喧嘩だ。俊君がブロックで得点した時は大祐君は声を出さないし、大祐君が得点しても俊君はハイタッチをしない。ちょっとした不和がチームの雰囲気を落とすきっかけになるので、顧問も外野から注意するが、様子は一向に変わらなかった。
流石スタメンということで、試合は25-11という圧倒的なものになった。得点的には今日は大祐君に軍配が上がる。しかし、ミスを含めると俊君のほうが高くなる。小森先輩からの評価的には俊君のほうが活躍しているらしい。
選手たちが片づけを終えて部室に戻った後、小森先輩と一緒に片づけの確認をする。救急バッグの中身や順番が変わっていると使いにくいので調節するとか、クランクの位置を戻したりしてから体育館を後にする。
校門の近くで同学年の部員が出てくるのを待ちながら、秋空を眺める。まだ六時のはずなのに夕景が広がっていて、秋の高い空に鱗雲が眩くきらめいている。美しいなぁと思いながらも、首元をかすめる秋風の寒さに身震いする。
「お、晴翔さん待っててくれたんじゃね?」
「いやないだろ~」
背後から聞きなじみのある声が耳をなでる。
「一緒に帰っていい?」
振り向きざまに大祐君に聞くと、にかっという擬音語が似合いそうな笑いとともに、もちろんという返事をもらう。大和田君の隣に立って六人で帰路に就く。
「俺最近ストレート練習してるんだよね」
大祐君は思い出したかのようにスイングの素振りをする。みんな知ってるよと大和田君が言うと、ほかの三人も笑い出す。しかし、大祐君は少し真剣そうに言葉をつなぐ。
「どうしてもあいつにブロックされるのが嫌だから、コースの幅を増やしたいんだよ。俺クロスしか打てないからさ」
あいつというのは俊君のことなのだろう。場の雰囲気の変化において枯れたほかの四人は押し黙っていたので、聞きたかったことを聞いてみる。
「大祐君は俊君のこと、嫌いなの?」
絶対否定される質問の形になってちょっと公開する。嫌い以外の言葉があったらなぁ、なんて考えていると秋風に同調する大祐君の声が木々を揺らした。
「正直に言えば嫌いかな。あの澄ました感じも本気を出さないことも」
一瞬の静寂をかき消すように大和田君が声を張る。
「あいつ、全然トスに注文しないんだよな。いいのか悪いのかわかんない」
「セッターってトスに注文されるほうがいいの?」
リベロの卵の山縣君が大和田君の肩を組みながら聞く。セッターの卵の大和田君とは同級生らしく、一緒にパスをやるぐらいには仲がいい。
「うまくいかないときは何が悪いのか教えてほしいんだよ。大祐みたいに文句ばっかりも困るけどね」
俺そんな文句言ってるか、と自覚のない様子の大祐君。でも私から見るに、彼が文句をつけないトスはないような気もする。
夕焼けに青春が溶けていく。マンションの長い影に閉ざされた道を皆で突き進む。
何を話していたのか思い出せないほどにくだらない世間話をしていたら、駅の分岐点まで来てしまった。大祐君は部活後とは思えないぐらいの声で別れを告げると駅のほうに去っていく。
部活と祭りの疲れが一気に体を遅い、別れたとたんに眠気にさいなまれる。太陽の力が弱り始め、東の空にはすでに闇が侵食し始めている。ぼんやりと今日の夕ご飯のことを考えていると、急に肩をたたかれた。
まどろみから引きずり出される。不審者かと思って後ろを振り返ることもせず走り出そうとしたが、予想外の声が私の耳に届いた。
「待て待て」
驚いて振り返ってみると、そこには部活の疲れを一切見せない俊君がいた。
「驚かさないでよ」
「そのつもりはなかった」
言葉の割に少し申し訳なさそうな表情を見せる。制服姿はスマートな体系の彼に似合いそうなものを、体型に会うサイズがないらしくだぼだぼで部活の時より一回り大きく見える。
「それで、何のようなの?」
わざわざ呼びに来たんだから何か用事があるのだろう。眠気のせいで早く要件を言わない彼に少しうっとうしく感じてしまう。まあ矢継ぎ早に言われたとしてもそう見えただろうけど。
「今日の夜暇?」
「何?新手のナンパ?」
疲労と睡魔を銃弾のように言葉に詰めて打ち出す。俊君は頭を掻きながら、何とか言葉をひねり出そうとする。
「えっと、夕ご飯一緒にどうかなと思って」
「やっぱナンパじゃん」
言葉は先と同じように言ったものの、睡魔の霧がかかった思考に迷いが生じる。どうせお母さんは今日も朝帰りだろうから、外で食べてきてもばれはしないだろう。 勉強会は水曜と土曜だから今日はない。
俊君の口元がやっぱいいやと言いかけるより先に口をはさむ。
「それで、行くとしたらどこなの?」
私の言葉をきいて、細い目を少し見開いた。それから思いついたかのようにファミレスやらファストフード店の名前をいくつか挙げた。すましたような彼がこういうお店に入るのは想像もできないけれど、意外と高校生らしいんだなと思う。
「その中ならあそこがいいな。ここから近いし」
俊君があげたリストの中で最も高校生になじみのあるチェーン店を選んだ。俊君は少し虚空を見つめてから、私に確かめた。
「本当にいい?」
「来てほしくないの?」
「いや、来てくれたらうれしい」
部活のときみたいにあまり感情を読ませようとしない態度に少しいらいらしながらも、彼についていく。月が頼りなさげに暗夜行路を照らし、星々が人々の上で眠たげに輝いている。
最安のファミリーレストランには、高校生の青臭い笑いと大学生の酒臭い愚痴が対比する。追い出された社会人は隔離された部屋で煙と愚痴を吐き出している。
「二名でお願いします」
俊君が店員と話している間に、知り合いがいないか見回してみる。文化祭も経てクラスの知り合いも増えたので、こういうところで出会う可能性もあるかと思ったけど、それらしき人影はなくて安心する。
運よく私たちは一番奥のソファ付きの角席に割り当てられた。四人掛けの席なので、荷物は隣においてゆったりと席に腰を掛ける。
「今日は俺がおごるから自由に食べて。」
「いや自分の分は自分で払うよ」
お母さん分の夕ご飯を買う必要がないから少し財布には余裕がある。それに、彼に借りを作るのは何となく気が引ける。
お互いに別のメニューを棚からとって開く。なぜか同じページでめくるのを止めた。
「あんたもこれ食べるの?」
このお店の定番メニュー、というか最も安くて最低限お腹が満たせるメニューといったところかな。このお店に来たことある人なら思い出せない人はいないだろう。
「安井から二つ頼んでお腹を満たすにはちょうどいい。晴翔さんもこれでいいんだね?」
肯定すると、彼はちゅうちょせずに注文ボタンを押した。近くの席で提供を終えたばかりの店員が電卓に似た注文機を開きながら定型文句を言う。
「ミラノ風ドリア3つ。それにドリンクバーを二つ」
ドリンクバーなんていらないじゃんと私が言おうと思ったが、注文の確認を手早く済ませると店員は去ってしまった。
「なんでドリンクバー付けたの?」
先ほどとは違い、明確ないら立ちを込めて言葉をぶつけた。しかし氷のブロックは予想以上に難かった。
「誘っといて何もおごらないのも悪いから。」
それだけ言い残すと、俊君は私を置いてドリンクバーに行こうとする。私が立ち上がろうとすると、彼が手でそれを制した。
「飲みたい物言ってくれれば取ってくる」
「じゃあ、アメリカンコーヒー」
手で軽く承諾のサインをしてから立ち去るのを見送る。そこでようやく私はどっかりと腰を落とした。
文化祭の時のようには肩を崩さない彼の前で、前以上に気を使ってしまう。もっと彼が巣の状態で話してくれたら楽なのに。
深く深呼吸して少し目をつむっていると、小さくテーブルが揺れる音がした。目を開くと私の席にはコーヒーカップが一つ、雑味と苦みを合わせただけのお湯割りエスプレッソが置かれていた。
「いるかわからないけど」
すでに席についていた彼は、どこからかシュガースティックとミルクを取り出して私の前に置いた。
「今日はいいかな。てか、俊君もコーヒー飲むの?」
テーブルの真ん中を点対象にしたように、コーヒーカップがもう一つ置かれているのを見つける。ただその中身は私のより少し少なかった。
「おいしくないコーヒーは嫌いだけど、眠気覚まし程度だよ」
そういうと、エスプレッソを一口飲んだ。苦いなといいながらも、もう一口飲む。
「それで、なんで今日はご飯に誘ったの?」
彼の目を見透かすように瞳の奥に視線を通す。磨かれた黒曜石のような硬さと鋭さを持つ瞳が、水面のように揺れながら景色を写す。
「一昨日の感謝を伝えるため、かな」
「感謝?」
特にありがたがられるようなことはした覚えはないというか、感謝すべきは私のほうだと思う。しかし、予想外の言葉が発せられた。
「俺、文化祭の午後は橘がいないし何もすることないと思ってたんだ。けど、晴翔さんがいてくれたおかげでお化け屋敷も行けたし、楽しめたからさ」
あの日と同じ、氷の皮が解けて落ちたような彼の言葉。普段とのギャップの大きさが今の彼をかわいく見せている。
「な、何笑ってんの」
「なんでもない」
口元を隠しながらほくそ笑む。巣の姿で話すのが慣れてないのか、緊張している様子がより一層かわいさを助長している。
彼の様子を堪能した後、私はコーヒーを一口飲んでから彼に告げる。
「むしろ感謝するのは私だよ。俊君がいなかったら多分一人ぼっちだったからさ。それに…」
あのことも言おうとして、頭に嫌な記憶がよみがえる。けど、ここには彼がいるのだから大丈夫と言い聞かせる。
「…燈子から助けてくれてなかったら今ここにはいられなかったと思う」
ちょっと大げさな言葉かな。でもその言葉に間違いはないと断定できる。
「きいていいかわかんないんだけどさ」
そう前置きをしてから、不用意にも私の痛手を探ってきた。
「あの燈子という人とはどういう関係なの?」
彼の言葉半分に、正直に答えるかどうかを少し考えたけど、不義理な真似はしたくないという思いが勝った。
「燈子とは前の部活で一緒だったんだよ。」
なるべく映像を、声を思い出さないように言葉に落とし込んだ事実だけを連ねていく。
「女バスで一緒だった。彼女は先輩や顧問に媚びを売ってたんだけど、経験者で目をかけられる私のことを妬んでいた、っていうのが正しいのかな」
死にかけのコオロギの鳴き声と表情の見えない彼の顔が絶妙にかみ合わさる。
「いじめってやつなのかな。ハブられたり、物を壊されたりね。」
ふと何かが頭によぎったらしい彼の表情金がはねる。
「もしかして今のシューズって」
そう言いかけたところで、私たちの間に壁が挟まれた。
「ご注文のミラノ風ドリアを三つ、お持ちしました」
店員さんの高く無表情な声とともに、湯気の立ち昇るドリアが届けられた。そそくさと次の仕事に戻る店員さんにお礼を述べてから、彼とっ目を見合わせる。
「とりあえず食べよっか」
「そうだね」
カトラリーケースからスプーンを二本取り出し、一本を彼に手渡す。軽く合唱してから、二人で声を合わせる。
「いただきます」
オーブンでこんがりと焼かれたチーズにスプーンを刺すととろりと広がっていく。スプーンにチーズとミートソースとご飯が層状に重なって、洋風特有のバターとチーズの香りが鼻に広がる。一口食べれば、こわばっていた心を溶かしてく。
「やっぱり、ここのドリアはおいしい」
向かいでは、俊君が私の倍くらいの速さでドリアを口に運んでは切り分けている。高校生らしい彼の様子を見て少し和んだ。
「俊君ってそんなに食べる人なんだね」
「部活後だからね」
しゃべり終えるとすぐに新しいドリアを口に運ぶ。私も熱々のドリアを何口か食べていくうちに、緊張や疲れが食欲に変換されていって、ドリアでかき消されていく。
俊君が一皿平らげた時に、さっき断ち切られてしまった会話の糸を手繰る。
「あのバッシュは、燈子たちにボロボロにされたんだよね。高校で部活に入った時に頑張って買ったんだけどね。」
親に言い出せず、家計を心配してくれたおばあちゃんが送ってくれた入学祝を使って勝ったシューズ。やるならちゃんとやろうと思って、入部してひと月ぐらいした時に買ったんだった。
「シューズっていくらぐらいするものなの?」
「安いものでも六千円ぐらいするかな。私が買ったのは一万円ぐらい。私には高かったかな」
バレーシューズと一緒ぐらいか、と言いながら新しいドリアにも手を出す俊君。彼にとっての一万円と私にとっての一万円はどれくらい違うんだろうと思ってしまう。
「じゃあさ、僕の古いシューズ貸してあげるよ」
「いや、いいよ」
予想しない提案にとっさの癖で断ってしまってから、ちょっと公開する。しかし、俊君は引き下がらなかった。
「僕が中学の時に使ってたやつなら、もう使わないから使っていいよ。だいぶボロボロになってるとは思うけどね。」
嫌なら別にいいけど、と付け加えて蓋さラメのドリアの最後の一口を食べた。
「使ってないなら借りようかな」
私の決定に彼はうれしそうにうなずいた。それから、思い出したかのように俊君が口を開く。
「そういえば、晴翔さんの趣味って何かあるの?」
「ゲームくらいかな」
最近を思い出しても、勉強か部活かゲームしている自分しか思い出せない。そんな私に、俊君は少し身を乗り出す。
「どんなゲームするの?」
「女子っぽくはないんだけどね。」
総前おいてから、私がずっと遊んでいるオンラインゲームとアクションゲームの名前を出す。どうせ知らないだろうなぁと思っていると
「そっちは俺やってるよ。まだへたくそだけどさ。」
まさかのインラインゲームのほうに食いついた。
「あのゲーム、前にやってた別のゲームにルールが似てるし、大会の数も多いから楽しいんだよね」
目を輝かせながら例のゲームの話を立石に水のごとく語る俊君。私にとっても好きなゲームだったので、彼の語りに言葉を足していくと、言葉のピラミッドができるようだった。
「まさか、晴翔さんがやってるとは思わなかったよ」
一通り語り合って面白さを共有してお腹いっぱいになった彼は、ソファに身をゆだねた。
「じゃあさ、今度一緒にやらない?通話しながらやったら楽しそうじゃん?」
「通話ありでやったことないの?」
俊君ならやって相と思った私の言葉が、俊君の急所に刺さったらしかった。きっと今頃CRITICALの文字が頭上に表示されてる。
「…一緒にやってくれる友達がいなかったんだよ。」
倒れこむようにそう語る俊君。その様子が少し可哀想に見えたのと、私も一緒に遊べる友達が欲しいので、彼の提案に乗ってあげることにした。
「じゃあ一緒に遊んであげる。私もそんなに自信はないけどね。」
さっき以上にうれしそうな俊君は、明日以降のスケジュールを確認する。そのままの流れで明日の部活終わりに一緒にゲームをする約束をした。
「明日が楽しみだな~」
お会計を済ませた俊君はさっきから表情を変えていない。
「結局払ってもらっちゃったけど、お金返そうか?」
遊んでくれるならいいよ、と言って財布をしまってしまった。お金に敏感な私にとっては、ちょっともやもやしたけど、これ以上彼の厚意を裏切るのもよくないと思った。
「じゃあ、また明日」
「また明日」
そういって闇夜の向こうに消えていこうとする俊君を見送る。高い背中もいつの間にか闇に溶けて沈んでいく。振り返って私も帰路についた。