あれから、数分後。私は、彼のことを病院に届けた。その時、先生がいつになくうれしそうにしていたのをよく覚えている。先生曰く
「蓮君は優しい人だったんだけど、不幸が大きすぎたんです。ですから、最後の最後に、君を幸せにできて、うれしかったと思いますよ」
確かに、蓮の周りには不幸なことが多すぎた。自分の病気に、両親の突然の死。私たちには計り知れない、つらさがあったと思う。それ故なのか、彼は頑張っていた。
彼のことを、一時保管室に送り届けるまで、見送った後に、私はとある場所向かった。それは、たくさんの願いが詰まっている場所。
病院の中にある、短冊をかけるような竹
お子さんに病気がある人向けにと、小児病棟の中に設置されている。ここからさほど遠くないので、すぐについた。
そして、私はまず自分の短冊を探した。すると、近くに二つ短冊が掛かっていた。さっき、この病院を出る前に掛けたばかりだから、すごい不審に思った。でも、その短冊を手に取って、書いてある名前を見て、また泣きだしそうになった。
その二つの短冊は、蓮と彼方のものだった。人の短冊を見るのは気が引けるけど、あの子たちならきっと許してくれるだろう。短冊をひっくり返すと、彼らの願いが書かれていた。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんが幸せになりますように 彼方」
「彼方が元気になりますように 暁さんを幸せにできますように 蓮」
二人とも、本当にお人よしだ。最後の短冊にも、自分のことを一切書かないなんて。
「あまりにも優しすぎるよ…」
でも、私は二人から幸せを願われたんだ。私の願いも、二人の願いの半分は、絶対に叶わない。でも、私が幸せになれば、彼らの願いが半分ずつは叶えられる。
もう、私は振り返らない。いなくなった彼らのことは、もう思い返さない。彼方のことは、少しだけ心残りがあるけど、後悔はしない。だって、二人からたくさんのものをもらって、託された。だから、これからは私の力で生きていく。
そうして、彼らの短冊をもとの位置にかけなおして、大きく一歩踏み出した。その時、一枚の短冊が風になびいた。
「彼方と蓮が元気になりますように 光」