新しい朝は、眩しい朝日と共に始まった
「眩しっ」
思わずそんな言葉が口からこぼれた。まぶたを閉じていてもわかるほどに、眩しい紫外線が眼球を貫く。二度寝を諦めて起きてスマホの時計を眺めると、もう8時になっていた。窓の外では日が少し上がってきていた。
「もうこんな時間か」
もう少し部屋に粘ってから、下の階に降りようと思っていたけど、
「朝ごはん食べちゃうよ~」
と、下から呑気そうな声が響いたから、さっさと朝ご飯を食べに降りることにした。
スマホの時計の上のカレンダーを確認すると、今日は例の日だと示していた。そう、いい経験のないバレンタインデーである。
バレンタインデー。 それは、愛するものに、もしくは親しいものにチョコを渡す日。貰えると期待していると、貰えないことが多く、悲しくなる日でもある
予定としては、人生で最後のバレンタイン。貰うだけじゃないんだし、やってみよう。
「蓮ってば。ご飯冷めちゃうよ。」
僕を急かす声がしたから再度響き渡った。
「ごめんごめん」
急いで下の部屋に降りると、既に暁さんが座って待っていた。食事の支度がされた食卓にを前にして、暁さんは待ちきれない様子だった。
「着替えなくていいから、早く食べよ」
「うん」
待たせちゃったから、僕は素直に暁さんの言うとおりにした。二人で向かい合って合掌をし、いつもの挨拶をした。
「いただきます」
いつも通りの食卓。でも、何故か2人とも話さなかった。それは、テストの後だからか、それとも…
せっかくふたりでご飯を食べたというのに、一言も話さずに食べ終わってしまった。食器を運びながら、僕は暁さんに話しかけた。
「ご馳走様。今日、ちょっと病院に行ってくるね。」
パンを飲み込んでから、暁さんが聞いてきた。
「病院?蓮、また彼方に逢いに行くの?」
僕は、また軽い嘘を吐いた。
「いや、自分の方だよ。一段落したから、ちゃんと検査も受けたいし。」
すると、暁さんは僕の体を見ながら言う。
「こないだ倒れてたしね。分かったよ。早めに行って、早く帰ってきてね」
「歯磨きしたらすぐ行くよ」
そう言って、食器を片付けて、洗面所に向かった。出来心で体重計に乗ったら、驚愕の数値を目にしてしまった。以前、病院では買った時よりももっと痩せていた。暁家に来てから、食事をしっかり取るように心がけているし、病院食よりも栄養価が高いはずなのに、どうやら僕の体にはなついてくれないらしい。自分でも驚くくらいに痩せすぎてしまった。
歯ブラシを手に取り、歯みがきしてる間って、暇だよね。と、僕の真似をする鏡の僕にそう問いかける。全くおんなじ質問が鏡の僕からも帰ってきた。奇妙な感覚を覚えながら、無心で歯を磨いていた。うがいを済ませ、歯ブラシを片す。
一度自室に帰って、薬を一通飲み、鞄を背負った。下の階に降りて、暁さんに一言
「それじゃあ、行ってくる」
と言いながら靴を履いた。いつもなら、元気に返事を返してくれる暁さんだったが、今日は返してくれなかった。代わりに、ずっとスマホをつついていた。少し寂しく感じたけど、それ以上何か言うことはしなかった。
そのまま玄関の扉を開け放ち、眩しい日差しが待ち構える外に出た。それでも暁さんは動かなかった。何かあったのかな?家に帰ってくる頃には、教えてくれると思うから、今は気にしなくていいかな。
空は中途半端に曇っているけど、その隙間を縫うように太陽がこちらを向いている。春の暖かさを僅かに感じられる、肌寒い風が吹いていた。寒いのが苦手だから、この時期は本当に嫌いだ。だから、パーカーに、パーカーを重ねるという、少しじゃどうなファッションだ。
まずは、とあるところに向かった。病院ではなく、駅の近くにあるそこは…
「いらっしゃいませ」
甘い匂いの立ちこめる、チョコレート菓子屋さんだ。大量に並ぶショーケースから選ぶのは、その後の姿を想像できて楽しいけど、かなり時間がかかる。ざっと見ても何種類あるのやら。どれも美味しそうだし、きっと喜んでくれると思うんだけど、どうも自分の選択に自信を持てなかった。出来れば自分で決め用途思ってたけど、後ろに人が待っているから諦めることにした。
レジの前に立っている店員さんに声を掛けた。
「すみません。このお金で、良さげなのを選んで貰えませんか?」
「かしこまりました」
すごい優しそうな店員だった。僕の無茶振りとも思える要求にも、親切に対応してくれた。
「こんな感じでいかがでしょうか?」
ものの三分ほどで一つの箱に六個のチョコを選別して入れてくれた。
「すみません、ありがとうございます。 えっと、お会計は…」
すると、店員さんは僕が最初に渡したお金すべてを数え上げて
「はい。これで、ちょうどとなります。」
と言った。僕は内心驚きながらも、表面はなるべく穏やかに答えた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております。」
と言って渡されたチョコの箱に、数倍もの重みを感じた。
まさか、持っていったお金の殆どを使うとは思わなかった。有名店なのは知ってたけど、そこまで高いとは思わなかった。お財布に入っていたお札が数枚ぐらい消えてしまった。使わないお金だったから、笑顔を作るために使えるなら最善だけどね。
そろそろ病院…の前に、更に寄り道をする。もう1件、チョコレート菓子屋さんに行かなくてはいけない。ここは、安くて高品質なものを置いてくれる。さっきのお店より手頃な値段だから、今のお財布には凄いありがたい。
ショーウィンドウには、さっきの値段で三倍ぐらいのチョコが入ったセットを買うこともできる。まあ、ここで買うのは
「すみません。この、ファンタスティックチョコレートの小をお願いします。」
いちばん小さい箱のにした。これは、暁さんようではなく、彼方用なんだ。彼方の病状はよくわかってないけど、病人の胃にはチョコのようなスパイスは悪いだろうと思って、食べられない前提で買う。
「こちらになります。お代はこちらから、丁度になります。」
と言って、店員さんはワンコインをトレイから引き上げた。僕は商品を受け取りながらお礼をした。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
そこまで大きくもないし、これぐらいだったら彼方が食べても問題ないと思う。まあ、食べられないようだったら暁さんのに追加することにしようかな。
さて、そろそろ病院に向かおう。ここからならそんなに距離もないし、歩いていけるはず。眩しく輝く太陽は、その熱を僕の影に移しこんでいた。
病院まで歩くくらいなら行けると思ったが、ダメだった。20分ぐらいで着くと予想していたんだけど、結局30分以上かかってしまった。当然だけど、思ったように体が動かないのは本当に不便だ。何とか歩き続けて、病院に着いた。
病院に着くと、前みたいに診察表を書いた。一応自分の診察もしてもらいながら、彼方に面会しに行く予定だ。こうやって薬をもらえるときに貰わないと、切れたときが怖いんだ。またあんなふうに倒れるかもしれないから。
数粉末と、僕はいつもの先生の診察室に連れて行かれる。
「八雲さん。中へどうぞ。」
「失礼します」
いつも通りの先生だった。優しそうな顔つきに、聴診器を肩にかけている。僕を見るなり、その様子を見て少し嬉しそうに笑う。
「おや、すごい疲れてるみたいだね。それに、チョコを持ってるとは。通院ついでに買ってこようと思ったのかな?」
何でもお見通しと言わんばかりのその目を、じっと見返しながら僕は答えた。
「その通りですよ。買い物の後に、歩いてここまでこようとしたら、疲れました。」
息を少し切らしながら答える僕を、孫を見る祖父母ののような目つきで見た
「そうだろうねぇ。二つチョコがあるけど、1つはこの中で渡すんだろう?」
本当に何でもお見通しなんだろうな。少しだけ彼方に似た視線を持つその目を、バクはあえて目をそらさないようにして話す。
「そうですよ」
僕に凝視されたことせいか、先生はパソコンの方を向きながら言う。
「彼女も今は私が請け負ってるんだ。今の体力なら、食べられるだろうから、ちゃんと渡すんだよ。」
そういうと、キーボードをカタカタと打ち始めた。画面に映し出されているのは僕のカルテだろうか。僕も釣られた絵画面見ながら答えた。
「もちろんです」
先生はまた僕の方に向き直ると、僕の心臓のあたりを見ながら言った。
「体調は何か問題はあるかい?」
僕は自分の心臓に手を当てて、自分で鼓動を測りながら答えた。
「特にないですよ。心配ご無用です。」
胸を張って答える僕を、軽やかに笑い飛ばしながら医者は言う。
「病人に言われても、説得力皆無だよ君。それじゃあ、いつも通りの薬。」
いつの間にか用意されていた薬を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
「あと、彼方の面会許可出しといたから、行ってきな」
よく見ると、僕の薬袋の上には、一枚の紙と面会札が入っていた。
「それでは、また今度」
荷物をすべて抱えて挨拶をした僕に、医者は涙を流しそうな笑みを浮かべながら言った。
「はいはい。行ってらっしゃい。」
診察室を出た僕は、いつも通りの先生に驚かされていた。僕が2つチョコを抱えていただけで全て読み取られてしまったんだ。どんな頭をしているのやら。
それから、彼方の病室に向かった。昨日来たときに知ったんだけど、彼方の病室は、今も僕の場所が残されているんだ。あの先生らしい気の利かせ方だ。 彼方の病室の前に立って、ドアをノックする。
「入るよ~」
彼方の返事を待たずに病室に入ると、少し元気そうな彼方がこっちを見た。
「あ、お兄ちゃんだ。でも、お姉ちゃんは来てないの?」
と、僕の横にいるべきの暁さんを探すように、虚空に視線を滑らせる。
「今日は通院ついでに来たからね。それよりも、ハッピーバレンタイン。」
僕は寝ている彼方にチョコを渡そうとした。すると、彼方は飛び起きるように体を起こしてから、チョコを受け取ると、オーバーリアクションに
「お兄ちゃんからチョコが貰えるなんて思ってもなかったよ。」
と言って、チョコを上に掲げた。彼方の横の椅子に座りながら、彼方のチョコを見上げる。
「隣もいなくて暇だろうし、ちょうどいいと思ってね」
「ありがとう。意外と気が利くんだね。」
自分では気を利かせようと頑張っていたから、彼方の言葉にすぐに反応してしまった。
「意外とって、気が利かなさそうに見えた?」
「実際に気が利かないじゃん」
彼方は上を無テイルから、それが嘘か本当かは見分けられない。だから、僕は素直に反応した。
「ほんと?!」
すると、彼方は僕の方を見ながらいたずらっぽく笑った。
「嘘だよ。お姉ちゃんのこともやってくれたし、今日もチョコくれたし。十分気が利いていると思うよ。そういうお兄ちゃんは好きかな。」
本当に、気が利かない人だったらどうしようかと思った。やっぱり、家族に好きって言われるのは嬉しかった。
半ば照れ隠しに、僕は彼方のチョコを指差しながら言った。
「チョコひとつぐらい食べてよ」
すると、彼方の様子がさっきまでと打って変わって、心配そうな顔をして、
「どうだろー。体的にいいのかな?」
と呟いた。僕は彼方に元気づけるように言ってあげる。
「さっき先生に聞いたらいいってさ」
「良かった~ それじゃあ、早速ひとつ貰うね」
と言って、箱を机の上に置き、蓋を外した。
「うわ~」
と、彼方が感動の声を発した。思わず僕もそんな声を漏らしたくなるような、チョコの甘い香りがたちこめた。
「お兄ちゃんからのチョコどれも美味しそうだね。どれから食べようかな~」
と、楽しそうにチョコの説明を読みながら、チョコの観察をしていた。一つ一つ指で確認して、選んだのは
「よし。無難なミルクに決めた。」
と言って、クローバー型の少しベージュ色をしたチョコを取り出した。
「いいんじゃない」
「いただきます。 はむっ、ん~!」
1口、口に入れると、嬉しそうな声を上げた。なんとなくその声に懐かしさを覚えた。甘いものを食べてる時のあまい声。2週間ぐらい前に、暁さんと買い物した時に、暁さんがタピオカを飲みながら発した声が、頭の中でマッチした。姉妹のつながりがそこに聞こえて、ちょっと羨ましく思えてしまった。
少し放心していた僕に、彼方の声はボールのように当たった。
「美味しかったよ。って、聞いてるの?」
はっと気がつくと、彼方の手を見ると、すでにそこにはチョコは残っていなかった。
「ごめん。ちょっと考え事してた。」
謝罪をする僕を見ると、彼方はちょっと不機嫌そうな顔をした。
「そんなに考えることあるの?悩んでるなら聞かせてくれても。」
そういう彼方の話を僕は断ち切る。
「いや。思い出そうとしてただけだから」
と言うと、彼方は僕のことを少し強い眼差しで見た。
「そうやってお兄ちゃんは、全部隠しちゃうんだから。 取り敢えず、チョコのお礼だけしとくよ。ありがとう。」
彼方にありがとうって言われると、やっぱり嬉しかった。家族の役に立てている気がするからかな。
「どういたしまして。体の調子はどう?」
彼方は自分の体を見ながら言う。
「今は落ち着いてるよ。蓮が退院してから急に先生変わったんだよね。話し方も仕草も面白いくて、すごく雑な先生なんだけど、知ってる?」
とても荒っぽい説明だけど、この病院でそんな診察をする先生は、僕は一人しか知らない。
「知ってるよ。僕もあの先生に診てもらってるからね」
「そうだったんだー。優しくていい先生だよね。」
僕と彼方の間では笑い話になるけど、旗から見ていたら笑えない話なんだよね。自分の末期治療をする先生の話なんて、本人たち以外軽く言えた話じゃないし。だから、僕らの間にも少し微妙な空気が立ち込める。
「患者に対してはいい先生だけど、他の先生とかはどう思ってるんだろう。」
「なんか嫌われてそうだよね。全部自分でやってそうだし。」
「今日もあの先生に、チョコなら食べさせてもいいって言われたから持ってきたんだよ。あの先生だったら、いつでも許可出しちゃいそうだけどね。」
と言ってから、僕は自分の言葉の軽率さを恥じた。でも、そんなことは気にしない様子で彼方は話を続けた。
「へ~。お兄ちゃんは、初めからあの先生だったの?」
「そうだよ。昔から適当な先生でね。」
僕は彼方を笑わせるという建前で、自分自信を笑わせるために、軽く言った。
「そうか~。お兄ちゃんと同じ先生に診てもらってるのか~。」
「なんかあるの?」
と聞くと、彼方は僕がいたベッドを指で指した。
「なかなか隣のベッドが埋まらないなぁって思ったら、お兄ちゃん専用だったのか~ってね」
僕は、自分が寝ていたベッドを見ると、ふとこの間までの生活が想起された。思い出を語るような口調で話す。
「ここね。何故か僕の名前で場所取ってるんだ。」
「こっからじゃ見えないから知らなかったよ。だから、前来た時も隣だったのか~。」
前回の入院の話だ。確かにおんなじ病室に二度入れられるのは意外な話なんだ。
「あはは。だから、いつ倒れてもここに来るから。」
と僕が軽く笑ってみせたけど、彼方はあんまり笑わないで僕に質問をした。
「でも、なんでお兄ちゃん専用の場所ができたの?昔からいる訳じゃないんだし。」
昔、という言葉に彼方の人生の大半をここで過ごしていることが想像された。本当に僕よりも大変な人生なんだな。哀しみを想いながら、僕は彼方の前では明るく言う。
「僕はここを正式に退院したわけじゃないからね」
その言葉に、彼方は予想通りのリアクションをした。
「え?!退院してないの?」
僕はつい先日のことを思い出しながら語る。
「抜け出したわけだからね。変な扱いで残ってるんだよ。」
「じゃあ、なんでこないだはちゃんと退院出来たの?普通なら、そのまま残るもんじゃないの?」
と、当然のことを言う彼方に、理由になっていないようだけど、通じる答えを言う。
「それは、あの先生だからね」
彼方もきっと、あの先生のことを想いながら話した。
「ほんと、患者に甘すぎるんだよ。こういう患者には、きつくやってもらわなくちゃ。」
「お母さんかな?」
思わずそんな冗談が口から溢れる。すると、彼方は僕の顔を見ながら言った。
「あはは こうして話聞いてると、お兄ちゃんは運がある人なのか、無い人なのか分からないね。」
自分でもそう想う。彼方は僕の病気の詳しいことは知らないと思うけど、それすらも運だからね。素直に僕は頷いた。
「確かに」
「それじゃあ、そろそろ帰りなよ。お姉ちゃんのぶんのチョコ溶けちゃうよ。」
と言って、僕のもう一つのチョコを指差す彼方。
「それもそうだね。じゃあ、また今度。」
と言い残すと椅子から立上がり、暁さん用のチョコを手に引っ掛けてから、部屋を出た。
すごい照れくさいけど、喜んでもらえて嬉しかった。かすかな引っ掛かりがあるにしても、家族にチョコを渡して喜んでもらうのは、貴重な経験なのかもしれない。暁さんに渡したらどんな反応をしてくれるかな。
直近の未来のことを考えて少し楽しい気分になっていたら、いつの間に家に着いていた。朝に家を出て、お昼ジャストぐらいに家に着いたんだから、丁度予定通りだと思った。
「ただいま」
と言って玄関の戸を開けると、慌ただしそうに出かける準備をしている暁さんがいた。
「おかえり。ご飯は食卓に置いとくから、勝手に食べといてね」
荷物をまとめている暁さんに、行き先を聞いた。
「どっか行くの?」
「彼方に会いたくなったからね」
という暁さんの声には、何か含みがあるように感じた。でも、それを詮索するのはだめだと思って、触れないようにした。
「なるほど。それじゃあ、早めに行ってきた方がいいね。」
玄関をあがり、手を洗って食事の準備をした。長い間歩いたけど、もうほとんど痛みも治まっていたので、安心していた。そういえば、と思って、ちょっとチョコを隠しておいた。なんか、今になって恥ずかしくなった。自分から家族にチョコをあげることなんてなかったから、心が慣れていないみたいだ。
「行ってきます」
玄関の方から唐突に声がした。僕がチョコを隠している間に暁さんは準備を終わらせていたらしい。朝と立場が逆で、見送りもできずに椅子に座ったままで、彼女の背中を押した。
「行ってらっしゃい」
暁さんが家をあとにしたのを確認して、僕も食事を取った。いつものごとく美味しい食事を摂った僕は、窓の外を眺めながら、物思いにふけた。
これからのこと。病気のこと。暁さんのこと。彼方のこと。悩みは増えていくばかりだけど、一つ一つ片付けていく目処はたちそうだった。
さっきの彼方のように、幸せは渡していくものなんだろう。その代わりに自分が不幸になったとしても。
少し痛む心臓を抑えながら、暁さんの帰りを待ち続けた。