久しぶりの買い物

 朝は何度でもやってくる。

 暁家に来てから、とにかく寝覚めが最高になったと思う。まず布団がいい。 とにかくいつも、ふかふかしていて、寝心地がとにかく。そして、枕もいい。 へなへなな枕ではなく、しっかりとしているんだ。暁家の寝具は、最高の睡眠と最高の寝覚めを提供してくれている。そのおかげで、前まで嫌いだった朝が、好きになれそうな勢いだった。

 朝は、貧血かつ低血圧の影響で、フラフラになってしまうから、嫌だった。まず寝起きの瞬間に立ち眩みが起きるし、その後には軽い頭痛に襲われる。でも今では、その辛さよりも、心地良さの方が上回っている。

 僕は普段は夢を見ない人だが、まれに悪い予兆として、夢を見ることもある。例えば病気が発覚する前日に、何故か夢を見た。あまり覚えていないけど、あのときはとても悪いことの予感がした。他にも、親の事故の時とかもそう。だから、寝る前には、夢を見ないようにと、神に祈っている。でも、あんまり神様について信じてはいない。結局は自分の運と実力だと思っているからだ。

 なんて、布団に転がりながら考えていたけど、そろそろ本気で起きないと文句を言われそうなので、ちゃんと起きることにした。

 起きて最初にすることは、自分の部屋の窓を開けることだ。とにかく、朝日は健康にいいと先生から聞いている。カルシウムの吸収に影響しているとか言っていた気もする。まあ、今はそんなことは関係なくなっているけどね。

 この勢いのまま、下の階に降りると、驚いてしまった。下の階に暁さんがいない。つまり、暁さんはまだ寝ているんだ。時計を見ると、昨日朝ごはんを食べた時間過ぎそうだった。昨日早起きをするように言われていたし、彼女を起こそうかなって思った。しかし、彼女の部屋に入るのも気が引けた。

 ふと、壁に目をやると、カレンダーが目に飛び込んできた。昨日、学校で聞いた、昨日の日付から、今日の日付を計算すると、なんと今日は土曜日だった。しかもカレンダーには、

「全休」

 と書いてあった。つまり、僕はただの休みの日に、無駄に早起きをしたんだ。こんなことだったら二度寝したくなってしまうけど、頭が痛くなるのでやめておいた。昼寝でもなんでも、変な時に寝ると頭がとにかく痛くなる。

 仕方なく、暁さんが降りてくるまでの間、時間が出来てしまった。そういえば、入ってはいけないとは言われていないし、そもそも紹介されていない部屋があるのを思い出した。

 このリビングの隣にある、和室だ。和室には、何故かピアノが置いてあるのは知っている。一度だけ彼女が入っていくときに、見かけたんだ。以前に少しだけピアノを引いていた僕は、いつかそのピアノで演奏したいと思っている。。

 最後に引いた覚えがあるのは何年前だったけかな。何tね考えながら、フラフラと歩いてピアノの前までついた。カバーを外してちょっと鍵盤に触れると、色んな曲を思い出した。暁さんが寝ていることも忘れて、自分が一番好きな曲を弾くことにした。

 誰の作曲家もわからないけど、一番好きな「モルダウ」。この曲を知っている人ならわかると思うけど、サビ前のメロディーが重厚感と流動感が有って綺麗なのだ。かなり昔の事だけど、小学校で、6年生送る会で歌うときにこの曲を聞いて、伴奏者でもないのに練習した。

 たまたま、練習の日に、伴奏者が2人とも休みになって、誰も弾けなくなってしまったことがあった。そんな時に、少しだけ練習した僕が引いたことがあった。その時は最初のとこしか弾けなかったが、楽しかったのを覚えてる。でも、結局は本番に伴奏者がやってきたので、僕の出る幕はなくなった。それでも、その時にもしものためにと思って練習したので、歌に合わせられるぐらいまで弾けるようになっていた。

 やっぱり、あの曲の和音はかっこよく響くので、弾いてて楽しい。完全に音に溺れながら、僕が楽しく弾いていると、階段の方から物音がした。ピアノを中断して、階段の方に向かうと、

「おはよう」

 と、寝起きの暁さんに挨拶された。

「おはよう」

 と返した。すると、暁さんはちょっと不服そうな顔をして

「なんでこういう日ぐらいもうちょっと寝ないの?せっかくの休日ぐらい休もうよ。」

 と、あくびを混ぜながら言った。僕は釈明をした。

「今日が休みなの知らなかったんだよ。それで、朝早くに起きちゃってさ。二度寝すると頭痛くなるから、二度寝もできないいから、下で待ってたんだ」

 そう言うと、彼女は階段を降りきってから、僕に言った。

「二度寝できない体質って辛いね。そういえば、さっきモルダウ弾いてたでしょ」

 もしかしたらその音で起こしちゃったかもと思いつつ、答えた。

「そうだけど?」

 そこから帰ってきた彼女の声は、僕を攻める声ではなかったから、安心した。

「朝の支度している間も弾いててくれない?モルダウは好きな曲なんだけど、弾けないんだ。だから、家にいてモルダウが聞けるのは嬉しいんだ。」

「そうだったんだ。僕もモルダウ好きだから練習したんだよ。分散和音だけでほとんど弾けて格好いいからね」

「ちゃんとモルダウの良さがわかってくれる人がいたんだ。全然話変わるけど、今日は何時に出かける?今がだいたい8時ぐらいだけど」

「10時に家を出るのでどうかな?店が開くのもそのぐらいだろうし。」

「2時間もあれば、準備も終わるだろうしね。それじゃあ、10時に家を出るために準備しようか。」

「そうだね。暁さんが顔洗ってる間とかはピアノ弾いてるね。」

「じゃあ、頼んだよ」

 その声で、僕は和室に戻ろうとした。でも、もう一度彼女が話を続けた。

「それとさ、いい加減苗字にさんとかくんとか付けて呼ぶのやめにしない?」

 急な提案だけど、なんとなくで提案を受けることにした。

「確かにそうだね。暁さんの名字は光だっけ」

 今まで暁さんと読んでいた人を、光って呼び捨てにすると、新しい印象が生まれる。もちろんその逆も起きる。

「そうだよ。八雲くんは蓮であってるかな。」

 自分の名前を呼ばれると、ちょっと驚く。周りで名前で呼んでくれる人なんていないんだ。だから、ちょっと嬉しくなった僕は、少し場を茶化した。   「あってるよ。名前で呼ぶようになったら、本当にカップルとかと間違われそうだね。」

 すると、暁さん、いや光は恥ずかしそうに笑って

「家の中だけにしよっか」

と言った。僕は、あえてその提案を断った。蓮って呼ばれるのが嬉しいから。

「学校だけ元に戻せば良くない? こっちの方が呼びやすいし」

「そうしよっか それじゃあ、顔洗ったり、ご飯作ったりしてるね」

「分かった」

 彼女がリビングに入っていったのをみてから、僕は和室に向かった。さっきと同じように、モルダウを弾き始めた。おなような局長が何度も響き渡って、少し聞き飽きてきた頃に

「そろそろご飯になるからおいでー」

 と言われたので、ピアノを元に戻し、リビングに行った。すると、いつもは見ない可愛らしい服装の光がいた。

「ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」

 彼女の姿にどぎまぎして、うまく答えらない。

「そ、そうだね」

 光は僕のことを不思議そうに見つめて言う。

「なんかあったの?」

 僕はいたずらっぽく笑いながら、光にいった。

「いや、暁さんの格好があまりに可愛かったから」

 すると、光はそのことをあんまり喜ばないで答えた。

「買い物の日ぐらいいい服を着るもんじゃない?男子にはわかんないかな。」

「その気持ちはわかるんだけどさ。私服の暁さんを見るのが初めてだったから。」

 そういうと、光は納得したけど、早くご飯を食べたいという意思を顕にした。

「なるほどね。ま、急いで食べちゃおうよ。買い物終わっても、色々やることあると思うからさ」

「そうだね。それじゃ。」

 また二人で一緒に合掌すると

「いただきます」

 昨日と一緒で、2人の声が重なった。

 テーブルの上には、ハムエッグと、トーストが置かれていた。光の料理はほんと美味しいなぁ、と思いながら食べていると、光が質問をしてきた。

「そういえば、蓮の私服ってあるの?」

「1着だけは持ってるよ。ジーパンにパーカーのなら。」

「後で着てみてよ。さすがにその格好で出かけるわけにも行かないし。」

 そう言われて、僕は自分の格好を見返すと、ただのパジャマなことに気がついた。

「今はパジャマだったね。これよりかはマシな私服だから、安心して」

 なんて会話をしながら食べていると、いつの間にか食器の中の料理はなくなっている。

「ごちそうさま」

 食器を全てカウンターに置くと、

「それじゃあ、私服になってくる」

 と言って、自分の部屋に行った。私服に着替える前に、今日の薬を飲んだ。変な甘さがせっか雨の料理を台無しにする。

 鞄に詰めていたのは、病院にあった私服で、好きだったものだけ残っている。お気に入りのジーパンにパーカーのセット。ジーパンは紺色でパーカーは緋色だ。あと、重ね着用の黒いパーカーをある。誰に買ってもらったのかさせ忘れたけど、この色のセットはお気に入りだった。だんだんと体が成長するにつれて、服もサイズを合わせて買い続けた。そんな、一番のお気に入りセットで光のもとに向かうと、

「意外と似合ってるね」

 と、言ってくれた。パジャマのときは酷評だったから、ちょっと嬉しかった。

「女子に似合ってるって言われると嬉しいかな。それじゃあ、片付けしたら出かける?」

 と問いかけると、既に片付けは終わっているようだった。

「もういつでも出られるよ」

「それじゃあ、行こっか」

 と言って、僕達は買い物に向けて出かけるのだった。外は最高の天気で、冬なのに少し暖かく、晴れていた。いつもこんな日がいいのになぁと思ってしまうのだった。

最初に、僕達は洋服を買いに行くことにした。あんな豪華な家の持ち主だから、すごい服屋にでも行くのかと思ったが、意外と普通のチェーン店だった。紳士服のコーナーを二人で回る。

「どんな洋服がいい?」

 と暁さんに言われたので、僕は自分の服を指しながら答えた。

「僕はパーカーが好きだから、パーカーがいいな。できれば前にポケットのあるやつ。」

 すると、どこかから彼女はいい着の服を持って現れた。

「こんなのはどう?」

 彼女が持ってきたのは、少し濃い色の緑のパーカーだった。自分ではあまり買わない色だけど

「その色かなり好きかな」

 と答えると、彼女はすかさずその服を僕の持っている買い物かごに入れた。さらに、どこかからまた新しい服を持ってきてくれた。

「あと、こんなトレーナーはどう?」

 彼女が手に持ってたのは、紺色のトレーナーだった。こういう服も、自分ではあんまり着ないけど、意外といいかもしれない。

「そのトレーナーいいね。色も好みだし、前にポケットついてるし。」

「良かった。あとはズボンかな。」

 と、どんどん僕の服を決めようとしてくれる。僕はただかごを持っているだけで、申し訳なくなっていたので、

「ズボンはほんとになんでもいいや。普通にジーパンでもなんでも。」

 と答えると、彼女は新しい質問を僕にした。

「蓮くんって寒がりだったっけ?」

 薬の生徒は言えないけど、寒がりなのは事実だから、ちゃんと答える。

「結構寒がりかな」

 すると、それを知っていたように彼女は答えた。

「そうだよね。じゃあ、こんな裏起毛のズボンはどう?さっきのパーカーに合いそうな色合いだし。」

 と言いながら、彼女が持ってきたのは、茶色の裏起毛のズボンだった。中はモコモコしていて、かなり暖かそうだった。自分で買うことはないけど、いい服だと思う。そういう服を見つけられる光のセンスを褒めてあげる。

「よくこんないい色のヤツ見つけたね。女子のセンスはすごいなぁ。」

「気に入ってくれたならいいけどね。とりあえずこんな感じていいかな。それじゃあ、そろそろパジャマも探そうか」

 と、僕のほめことばはあんまり聞かないで、新しい服を探しに行ってしまった。僕は彼女に合わせて

「そうだね。着心地が良さそうなやつがいいな。」

 と言った。周りの客に物怖じもせずに、光は奥へと進んで一着のパジャマを見つけて、僕に見せた。

「そういうだろうと思って ほら」

 そう言って、彼女が見せつけてきたのは、黒のルームウェアだった。僕は、その彼女のセンスに驚きながら言った。

「なんで、こんなに僕が欲しかったものを的確に当てられるの?」

「あの酷いファッションから、こんな感じかなって思ったんだよ。それじゃあ、これでいいね?」

「もちろん」

「他に欲しいものとかある?」

「特にないかな」

「それじゃあ、少し待ってて 会計済ませてくるから」

 そう言うと、彼女は僕の手から買い物かごを奪おうとした。でも、僕はその手を話さないで

「着いてこうか?」

 と言うと、彼女は嬉しそうに

「それじゃあ、お願いしようかな」

 っと言った。この店に来るのが初めてなので、どこにレジがあるのかわからなかったが、彼女についてくだけで済んだ。着いた先には何やらかごがちょうどハマる場所がたくさん並んでいた。

「ほら、ここにカゴを置いて」

 と言われるがままに、かごをおいた。

 今の時代、完全自動レジというのも、珍しくないらしい。よく分からないスペースにカゴを置くと、買った商品がすべて表示されて、値段も提示されていた。横のお札を入れるところに彼女がお金を入れると、会計が済んだようで、レシートとお釣りがでてきた。

「それじゃあ、これ持って向こうで袋に入れよっか」

「分かった」

 口ではわかったなんて言っているが、何が何だかという感じだった。いつもなら店員さんが袋に詰めてくれるのに、自分でやらなくてはいけないらしい。やること自体は単純で、棚の上にカゴを置いて、棚の下にある袋を取って、詰めるだけだった。

 詰めてしまえばなんてことは無い。いつもの買い物と同じだった。大きな紙袋に買ったものをすべて詰め終えると、僕の手に荷物を載せて二人で店を出ていった。

「にしても、今の時代すごいね」

 と、僕が自動レジに対しての率直な感想を零すと、

「そう?もう当たり前だと思っていたけど。」

 と、時代遅れといいそうな答えが帰ってきた。

「そうなのかなぁ。まあ、数ヶ月ぐらい外に出てなかったからかな。」

「そうだったんだ」

「入院してたしね」

「そうだったね。なんかもう家にいることに慣れちゃってるけど、それまでは入院してたんだよね」

 そう言われて、僕自信も少し驚いた。既に暁家の人間みたいになってるけど、それはほんの数日前からの話で。深く考え込んで、話が切れないようにと、適当な話で繋いでおく。

「今度、あのあいだに学校で何があったか教えてよ」

「そうだね。私の中で一番楽しかったのは、文化祭かな。」

「出たかったなぁ。中学最後の文化祭。」

「いつか話してあげるよ。」

 と暁さんが言うと、ふっと緊張の糸が緩んだ。と同時に、僕のお腹の虫がなった。僕が必死で隠そうとしたけど、暁さんはしっかり聞いていたようだった。

「こんな時間だし、お昼でも食べる?」

 もう今更隠せることじゃないと思って、お昼ご飯の話題にシフトさせた。

「食べるとしても、ファミレスかなぁ。」

 と言ってから、せっかく女子と来てるのに、少しもったいないような気がした。でも、暁さんはそれに乗り気のようで。

「それでいいんじゃない?安くて早くて、いいもんね。」

 と言うから、ファミレスで諦めることにした。

「それじゃあ、あそこのファミレスにしよっか」

「そうしよう」

 そう言って、僕達は有名ファミレスチェーン店に入っていった。中はまだすいている感じで、すぐに座ることが出来た。座ると二人で一つずつメニューを開いて、昼食ぎめに取り掛かる。何となく食べるものを決めてから、暁さんがなにを食べるか聞いてみた。

「何食べる?」

「私はこのミラノ風ドリアかな」

 そう言いながら、暁さんはメニュの最初のページの一番上を指さした。僕も自分のメニューで同じ場所を開きながら言った。

「僕も同じのがいいや。この店の王道だもんね。」

 二人のメニューが決まったから、僕は呼び出しボタンをおそうとした。でも、その手は止められた。暁さんはメニューでサイドメニューのところまでページをめくりながら言った。

「せっかくだし、なんかサイドメニュー頼もうよ」

 僕はサイドメニューの内容を読んでから、いつものやつを頼むことにした。

「そんな時はほうれん草のソテーがいいと思う。すぐに届くから、空き時間にいいよ。」

「それじゃあ、その3つを頼むね」

 そう言って、今度は彼女が店員を呼んだ。暁さんは店員さんに丁寧な態度でオーダーをした。店員さんが立ち去ったのを確認すると

「じゃあ、水汲んでくるね」

 と言って、僕は席を離れた。少し席から離れている、ドリンクコーナーの隣のウォーターサーバー、カップ二杯に、水をいい感じに汲む。昔ながらの、オスと水が出てくるタイプで、調整が難しかったけど、七割ぐらいまで水を入れると、席に持って帰った。

「はい」

 と言って、片方を渡した。冬場で乾燥してるからか、のどが渇いていたので、すぐに水を飲んだ。どうやらそれは暁さんも同じようだたった。喉が潤うぐらいの水を飲み終えると、早速ほうれん草のソテーが届いた。暁さんは早く届くことに驚いていた。

「ほんとに早いね」

 少しだけ得意げに僕は答えた。

「でしょ。最初に1品頼むならこれが一番オススメだよ。ほら、フォーク。」

 食器かごの中から二人分のフォークを取り出して、片方を暁さんにを渡した。

「ん、ありがとう」

 ふたりしてソテーを食べながら、ちょっとした小話をすることにした。

「野菜を、米とかを食べる五分前に食べるといいって言うから、ちょうどいいでしょ」

「よく知ってるね、そんなこと」

「健康的な生活方法は知ってるからね」

 と、僕が自慢げに言うと、暁さんは呆れた様子で

「それならもうちょっとガタイは良くならないの?」

 と言う。僕は少し嫌なことを回想したけど、適当な言葉で会話を流すことにした。

「体つきはもう仕方ないとしか」

「そう。それはそうと、このソテー美味しいね。」

 と、僕の様子を見かねてか、暁さんが話題を転換した。なんだか申し訳なくなったけど、そのまま話を続ける。

「美味しいよね。味付けがちょうどいいし。」

「ほんとほんと」

 なんて軽い話をしながらソテーを2人でつついていると、ちょうど食べ終わった頃にドリアが届いた。

「ちょうどいいタイミングだね。」

「ちょうどよかったね。はい、スプーン。」

 さっきと同じように、僕が二人分を出して片割れを暁さんに手渡す。

「ありがとう」

 そう言うと、何故かいつもの家の食事の雰囲気になった。二人して合掌すると、

「いただきます」

「いただきます」

 と言って、2人とも食べ始めた。できたてだから、冷めていなくて美味しかった。正直ミラノ風とか言われても、どこにその要素があるのかはわからないけど、チーズとケチャップの味付けが美味しいことだけは確かだ。程なくして、2人とも食べ終わってしまった。先に食べ終わっていた暁さんから声を掛けられた。

「ここのミラノ風ドリアは、いつ食べても美味しいよね」

 すぐ後に食べ終わった僕は、いいで飲み込んで話した。

「美味しくて止まんなくなっちゃうよね」

「ほんとほんと」

「どうする?会計済ませちゃう?」

「私会計してきちゃうから、外で待ってて」

「分かった」

 そう言って、伝票を彼女に渡してから、2人分の水のカップを片し、店の外に出た。店の外からレジの方を眺めていると、すぐに彼女が出てきた。

「待たせた?」

「いや、全く」

「ならよかった。それじゃあ、買い物の続きをしよっか。」

 昼食を食べたら、満腹感で満足していたけど、買い物はまだ半分あるのだ。午後の買い物はちょっとめんどくさいな。お店を出てから、ふと空を見上げた。ほんとに今日な一日中いい天気なのだろうか。雲ひとつない快晴が澄み渡っていた。

 それから、暁さんのすすめで、僕のスマホを買いに出るのだった。あんまり携帯電話について知らない僕は、携帯会社なんて、どこも変わらないと思っていた。でも、どうやら暁家には、御用達があるらしい。名前もそこそこ有名な店だけど、僕はそのお店のお世話になったことがない。

 携帯電話をよくわかっていない僕は、暁さんについてお店に入ると、いろんな機種のスマホがあるところの前に立った。

「どんなスマホにしたい?」

「あんまりわかんないからなぁ。光が今使ってるのと一緒でいいよ。」

「分かった。それじゃあ、ちょっと行ってくるから、そこのベンチで待ってて。」

「うん」

 僕は彼女を残して、スマホがたくさんあるところの近くの椅子に座った。遠巻きに眺めていると、彼女は携帯会社の店員と話し始めたようだ。自分のスマホのことなんだろうけど、全部暁さんに任せたほうがいいと思って口出しはしないことにした。

 僕は、陳列されたスマホの横にあった雑誌に触れてみる。時代に遅れていることを知るばかりだった。僕が触ってたのは、親から貰ったパソコンで、スマホは、なんにも知らなかったのだ。

 パンフレットいわく、今の時代、スマホはパソコンと同じくらいの性能らしい。性能が上がるにつれて、どんどん高額になっているようで、目を見張るような金額がたくさん並んでいた。親のおかげで、かなりのパソコン好きだった僕には、ここまでのお金を出して買う意味あるのかなって思ってしまった。パソコンのように、持ち運びは出来ないし、自由に分解して改造できるわけでもない。まあ、持ち運びや使い勝手の便利さに対する対価なのかもしれない。

 雑誌をパラパラめくっていると、そこには、暁さんが持っていたであろうスマホも載っていた。その額を見ると、それは業界最高クラスの代物だったと知った。これだけの値を出せば、高級パソコンが変えてしまいそうだ。さすがは暁家と思った。そして、すぐに自分も同じのを頼んでいたのを思い出した。    ものすごい価格を払わせてしまったであろうことに、罪悪感を感じ始めた。でも、スマホのことは一任してしまったから、今更言うことはできない。諦めて、あとでいくらか払うことにした。

 そういえば、暁さんってどうやって携帯を買おうとしているのだろうか。携帯の契約等は、親がするはずで、子供では出来ないような気がする。そう思って、暁さんの方を見ると、何やら暁さんのスマホから聞きなれない声が複数していた。いい魔の状況から考えるに、多分、暁さんの親御さんだろう。今の時代、テレビ通話をしながら契約もできるのか。

 いや待てよ、そうすると、僕が暁さんと同棲していることが、暁さんの親御さんにバレてしまうんじゃないかな。もう契約の話が進んでいるんだし、多分時すでに遅しだと思うけど。半ば諦めに、視線を天井にやって、待っていると、

「はい。これが蓮のスマホね。せっかくだから、カバーとかケースとか全部買ってきたよ。」

 と言って、店員さんとの話が終わった暁さんは、僕にスマホとそのアクセサリー類が入っている袋を渡してくれた。

「あ、ありがとう。でも、その親御さんと大丈夫だった?」

 と、僕が心配になって聞いたら

「うちの親ねぇ、私が男の友達が出来たっていったら、すごい喜んでたよ。家に入れたんだって言ったら、大人になったねぇって言われた。スマホについても、全然OKだって。」

 絶対親御さん勘違いしてると思う。まあ暁さんの親御さんに出会うことなんてないと思うから多分大丈夫だろうけど。

「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」

「もちろん。これからどうする?」

 二人して時計を見た。まだ時計は三時半ぐらいを指している。まだ時間もあるみたいだし

「なんかおやつ食べに行かない?」

 と提案した。それを待っていましたと言わんばかりに、暁さんは答える。

「クレープにしようよ。この近くにクレープ屋があるって聞いたから。」

 名前しか聞いたことがないクレープだけど、暁さんが食べたいならということで了承した。

「そうしよう」

 そうして、スマホの入った袋をなるべく丁寧に持ちながら、クレープ屋をめざした。携帯電話外車からさほど遠くない距離に、数人の学生が集まる出店のクレープ屋さんがあった。

「ここだね。人もそんなに居ないみたいだし。」

「ちょうどいい時間帯だったのかな」

 そう言うと、二人でカウンターの近くに寄った。暁さんは並べられたメニューを凝視しながら聞いてきた。

「それより何にする?」

 クレープというものに精通していない僕は、安全策を取って光に合わせることにした。

「僕は光と同じのにするよ」

「それじゃあ、ストロベリーチョコキャラメルにしようかな。飲み物はいる?」

「僕はいいかな」

 と僕が答えると、暁さんはメニューに大文字で書かれた文字を指差した。

「二人でタピオカ頼まない?一人で飲むのはちょっと恥ずかしいし。それに、ここの店、割と有名みたいだよ」

 タピオカという物自体を知らないからこそ、少し興味が湧いたので、飲んでみることにした。

「タピオカ全くわかんないんだよね。ちょっと試してみたいかも。」

「それじゃあ買ってくるね」

 そう言うと、彼女は店員さんと話し始めた。それに合わせて、僕は少し下がったところから、彼女と店員さんを眺める。

 ふと思うと、さっきから彼女の買って貰ってばかりいる。それどころか、店員さんと話した記憶すらない。店員相手にもうまく離せなくなってしまうほどに、人と話すのが苦手なのもある。それでも、会計も任せちゃってるのは、すごく申し訳ない気がする。と、僕が反省をしていると、

「はい。クレープ。」

 と言って、包み紙に包まれた手巻き寿司に似た薄焼きのナンみたいなものを手渡された。

「ありがと」

 と言って受け取る。

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

 そう言って、クレープをひとくち食べた。チョコといちごと生クリームが口の中を飽和させた。

「うんま?!」

「すごい美味しいね。甘くてとろけそう。」

 暁さんも喜んでいる様子だった。チョコソースがいちごにかかっていて、甘さを強めている。その上に、少し塩気のあるキャラメルがのっている。かなり甘いけど、重いと感じさせない絶妙なバランスが成り立っていた。包み紙の奥底の方乗っクレープまで食べると、感嘆が口から漏れた。

「美味しかった」

「美味しかったね。ストロー2本貰っといたから、一緒に飲も。」

 と言うと、暁さんは左手に持っていたミルクティーに見えるものを僕の近くに差し出した。

「うん」

 そう言うと、暁さんと二人でストローを刺して少しずつ飲んでみた。最初のうちはただの甘いミルクティーだったけど、急に何かが口に入ってきた。弾力がある、グミのコラーゲン増量版に近い、球形のもの。噛みごたえが有って、いくら感でもなかなか噛み切れないけど、それが美味しさに繋がっているのかな。一方、隣の暁さんは

「ん~」

 と、美味しさに悶絶していた。なるほど、この美味しさなら、女子高生に流行るのも無理はないと感じた。それに、これまであんまり耳にしないものだったからこそ、その新鮮さに釣られたんだと思う。

 その後、僕と暁さんは、無言でタピオカを飲み続けた。別に話したくなかった訳では無い。タピオカがどんどん口に入ってくるので、なかなか話すタイミングが合わないから、お互いに話せないままだっただけ。気がつけば中身は減っていて、なかなかに中毒性が高いなと感じてしまった。ようやく全てを飲み込んだらしい暁さんは、

「すごい美味しかった」

 と、満足気に言っていた。

「美味しかったね」

 なんかさっきと立場が逆転したな、とか考えながら僕も答えた。

「もうやり残したことは無いよね?」

 ふと考えてから、一つ欲しいものがあることに気がついた、せっかくスマホを買ったんだし、久しぶりに新調しようと思う。

「ちょっとだけ電気屋さんに寄ってもいい?。スマホを買ったんだし、イヤホン買いたいからさ」

「イヤホン便利だもんね。電気屋さんなら、ちょっと遠いけど、あそこがオススメかな。」

 そう言うとスマホで地図を見せてきた。そこに書かれていたのは、ここからそう離れてはいない、電気チェーン店だった。

「別にいいけど、なんでそこにこだわるの?」

 この近くに別の電化製品店があるのを知っているから、聞いてみると

「ここなら、色々と使えるからさ」

 と、自慢気に言った。何のことかよくわからないけど、会員にでもなっているのかな。空を見ると夕景に変様しようとしていたので

「そろそろ時間的にもあれだし、急いで買いに行こうか」

「そうだね」

 と言って、僕達は電気屋に向かった。電気屋に入ると、以前に比べてイヤホンコーナーが広くなっていた。段々と利用者が増えていると思うと、少しうれしくなった。僕はパソコンを使ってる時からの愛用品があるので、それを棚から取ろうとすると、暁さんが僕の手を止めた。

「待って。たしかその商品は、マイク付き版があったよね。スマホに着けて使うなら、通話もできた方が楽じゃん。」

 と言うと、近くの棚からマイク付きの方を持ってきてくれた。値段を見るとマイクの有無でそこまで変化はないようだし、使い心地も良さそうなので、買うことにした。

「それじゃあ、買ってくるから、待っててね」

 今日初めての、自分からの買い物に向かおうとしたら、

「とりあえずこのカード持ってってね。これがあれば色々付けられるから」

 と言って、彼女は黒いカードを差し出してきた。僕はあんまりポイントカード類を使う人ではないからあんまり知らないけど、黒いカードって聞くと、別格のオーラを感じた。

「分かった」

 と言って、彼女からカードを借りた。久しぶりに自分が愛用していたイヤホンを使えると思うと、少し地から足が浮くような気分だった。レジに並んで、店員さんに

「これ、お願いします」

 と言って手渡す。店員さんは手慣れているとも、マニュアル通りとも取れる対応で

「かしこまりました。カードはお持ちですか?」

 と聞いた。

「これをお願いします」

 そして、暁さんから貰ったカードを渡した。

「お預かりします。」

 と言って、店員さんがそのカードを機械にかざすと、商品の値段が一割ぐらい安くなった。一体どんなカードなんだろうって思いながら、会計を済ました。

「これでお願いします」

 と言って、言われた金額調度のお金を渡すと、

「はい。こちらお品物と、カードと、レシートになります。」

 と言って、同時に3つのものを渡された。店員さんも忙しいんだとは思うけど、できれば順番に渡してほしかった。後ろに人が並んでいるので、急ぎながら全部しまった。

「ありがとうございました」

 と、レジを去る僕を追いかけるように店員の声がした。レジをぬけたところに、暁さんが待っていてくれた。

「待たせた?」

「全然。あ、カード返して。」

「はい」

 と言って、レシートと一緒にしまっていた彼女のカードを返した。

「これで買い物わ終わりかな」

 カードをしまいながら、暁さんは言う。

「そうだね。それじゃ帰ろうか。」

 そう言って、僕らは電気屋を出た。空は綺麗な夕焼けが澄み渡っていた。ただ、西の方に少しだけ雲が見えた。僕らの初めての買い物は幕を閉じたのだった。

 あれから、数分をかけて、家に着いた僕らであった。2人とも洗面所で手を洗ったあと、リビングに座り込んでしまった。買い物でかなり歩いたせいか、疲弊していた僕らはお互いの顔を見合っていた。

「これからどうする?」

 と僕が言うと、暁さんはすくっと立ち上がり

「とりあえずお風呂はいってきなよ。ご飯作って待ってるから。」

「分かった」

 本当は、スマホについて色々知ろうと思ったんだけど、追われたとおりにするしかない。買い物袋から、新しいルームウェアを取り出して、下着を持って風呂場に向かった。荷物を一旦置き、2階から風呂場のタオルをとり、もう一度風呂場に向かった。

 さっさと体と髪の毛と顔を洗って、風呂に浸かりながら、考え事をする。

 スマホとはどんなものなのだろうか?パソコンのように、自由度が高いと使いやすいと、僕みたいな人間にとっては思う。僕の場合は、パソコンが使えた時には、何度も壊しては自分で修理をしていた。完全に自分好みにカスタマイズしてたから、壊れたときは全部設定を直した。

 こんな感じに、スマホも使いこなせればいいのだが、何せ初めて触るのだ。同じ機械といえど、近いところもあれば、遠いところもあると思う。今日見たパンフレット、スマホには主に2種類あるらしい。今回買ってもらったのは、値段が高い代わりに、何年使っても壊れにくいらしい、有名メーカのタイプのはず。セキュリティが高いということは、自由度が低い気もする。

 スマホ初心者が何を言っても無駄とは思うけど。なんだかんだでかなりスマホに興味を持っていたので、早く使ってみたい。風呂に入れと言われた時は、少しだけ残念だった。

 風呂にある時計を見ると、風呂に入ってから、もう20分ほど経ちそうなくらいだった。全く、風呂で考え事をしていると、すごい時間が経つのが早い気がする。この風呂の心地良さが、頭を鈍らせてでもいるのだろうか。本当はまだ考え事もしたかったんだけど、長風呂は禁止と昔医者に言われていた気がするので、急いで出ることにした。

 新しいルームウェアをの着心地は、丁度いいの一言だった。普通の服よりも緩く、着やすく、暖かい。冬に着るには最高のルームウェアなのではないのかと思ってしまう。リビングに入ると、既にテーブルには食事が用意されていた。

「風呂出たよ」

 と言うと、先に席についていた暁さんは

「ご飯準備しておいたから、食べちゃおうよ。きっと、スマホのことでソワソワしているんだろうし。」

 と、見透かしたように言った。

「なんでわかったの?!」

「そりゃ、君に風呂入ってって言った時に、すごい残念がっていたんだもん。きっと、スマホをやりたかったんだろうなって思ったよ。でも、それを始めるとご飯食べるタイミングがなくなるからね。ほら、食べるよ。」

 と、子供をあやすように言われた。子供みたいに駄々をこねるのはみっともないので、ちゃんと食べよう。

「いただきます」

「いただきます」

 どうしても、早くスマホをやりたかったので、ちょっとせっかちになって食べてしまった気がした。それでも、出された目玉焼きと、鯖の味をしっかりと味わって食べた。ちゃんと、目玉焼きは半熟で、とろとろしていて美味しかった。鯖の水煮缶は久しぶりに食べた気がした。

 目玉焼きは、病院食でたまに見かけるので、見慣れているが、鯖の水煮缶は出た覚えがない。醤油を少しかけて食べると美味しいと暁さんに教わったので、試してみた。あんまり好きじゃなかった鯖だけど、唯一と言っていいほど好き担った。

 病院食として出る鯖は、みりん干しぐらいだったかな。類に違わず、ほとんど味付けがされていないので、美味しいなんて思ったことは無い。こんなに美味しい鯖の食べ方なんて、知らなかった。

「ご馳走様」

 と僕が言うと、暁さんは時計を見てから

「早食いは良くないよ。君はまだ退院して間もないんだから、食生活には気を使わないと」

 お母さんに叱られている気分になってしまった。もう、こんなふうに叱られることは一生ないと思っていたので、少し嬉しくなってしまった。彼女の言うことは正論だし、ここで嬉しがったら変人と疑われると思って、子供っぽく返事をしておく。

「はーい」

「美味しく思って食べてくれてるならいいんだけどね そんなにスマホやりたいなら、食器片しといてくれない?」

「任せといて」

 と勢いで答えると、暁さんは驚いた様子で

「えぇ?!。絶対やらないと思ってたのに。いいよいいよ、食器は私がやっとくから。」

 と、撤回しようとした。でも、僕なりの意地を張って

「そんなに家庭科できないわけじゃないからね。食器洗いぐらいなら、ちゃんと出来るから、任せといてよ。」

 と言った。もちろん、完全な嘘なんだけど。

「それじゃあ、お言葉に甘えて。この食器たちを頼んだよ。」

 と言って、暁さんのお皿もカウンターに並べられる。

「分かった。それじゃあ、少したったら、お風呂に入ってきなよ。片付け全部やっておくから。」

「お願いね~」

 と言って、彼女はふろ場に向かってしまった。

 さて、どうやって食器洗いをしようかな。僕がやったらお皿を割る予感しかしないと思ったら、この家には、便利な食洗機がついていた。

 使い方は理解していないけど、中を開けてみると軽く水洗いしたらしい食器が並んでいた。軽く油汚れなんかを落とす程度だったら、僕でもできると思う。炊飯器の中のお釜とかは別だとは思うけど、ほとんどスポンジを使わなくて済む。

 お皿を一枚ずつ水洗いしては食洗機の中に並べる。それが終われば、オカマの外せるパーツを外して、スポンジでどうにか洗うと、拭いて元通りにした。どうにか食器とテーブルの片付けが終わった頃に暁さんが風呂から出た。

「全部食器やってくれたんだね。それじゃあ、スマホやってみよっか」

「うん!!」

 ただの子供みたいな反応をしてしまった。

「あれ!スマホどこやったっけ?」

 と、暁さんが買い物袋を漁っている横から、僕が別の場所から取り出したスマホをおいた。

「さっき持ってったからここにあるよ。ほら。」

 暁さんに渡すと、ちょうどテーブルの真ん中あたりにスマホ本体とマニュアルを並べた。

「それじゃあ、始めようか」

 そう言うと、暁さんはスマホの横のボタンを長押しした、どうやらそこは電源ボタンらしい。

「と言っても、最初は蓮でもできるでしょ」

 と言うと、電源がついたスマホを僕に見せてくれた。そこには

「どれどれ。アカウント設定か。」

「ここら辺は蓮が適当にやってね。わからなかったら聞いていいよ」

「そうだね。じゃあ、ちょっとまってて。」

 と言って、人生初めてのスマホのアカウント設定をどんどん行っていくのだった。昔にパソコンの設定をやったときは、設定できることが殆どなかったけど、今のスマホはいろんなことができるらしい。名前の入力は、昔のパソコンに使ってた名前を使うことにした。年齢は何かしらの制限がかかるのは嫌だから、二十歳ぐらいに鳴るように誕生日を決めた。誰でもできるようにと、設定が簡単だったから、早く最初のセットアップが終わった。一段落したのを確認すると、暁さんにこの先を聞いてみた。

「ここからはどうしたらいいの?」

 取り敢えず暁さんに聞いてみた。

「もうメールやらなんやらはほとんど決まってるみたいだし、残りは連絡手段かな。私が使っているSNSにしよう」

 今の時代のSNSを全く知らないので、どんなのを使うのか聞いてみる。

「どんなやつ?」

「今流行りのSNSは会社が不透明だから信用できなくてね。私と親はこのちょっとコアのSNSを使ってるんだ。」

 と言って、暁さん自身のスマホで見せてくれたのは、パソコン版もあった、割と有名なSNSだった。拡張性が高いから便利で、個人情報も取られる心配がなくて、安心して使える。とはいえ、スマホでそれをやる方法は知らないから、暁さんに尋ねる。

「それはどうしたらいいの?」

 すると、暁さんは僕のスマホの画面を湯に指しながら教えてくれた。

「取り敢えず、この、アプリストアに入って、このアプリをインストール」

 言われたとおりに操作していると、スマホの画面にアイコンが登録されていた。

「出来たよ」

 と言うと、暁さんはそのアイコンをタップした。すると、少し懐かしい雰囲気の画面が姿を表した。

「それじゃあ、こっからSNSのアカウント作成。自由に作れるけど、人に見られても恥ずかしくないようにね」

「分かった」

 さっきと同じく、パソコンの名前と同じに設定した。後はメールアドレスとかは、スマホの新しいので登録してみた。アカウント作成が終わったらしく、何にもない画面になる。それを見た赤着くさんは

「これで、君もSNS使いの仲間入りだね。取り敢えず、私だけでも登録しておいて。」

 暁さんは自分のスマホでQRコードを提示すると、僕のスマホに近づけた。僕は適当に画面を触っていると、どうやら暁さんのスマホに表示されたコードを読み取れたらしく、「「光」を登録しました」と画面に表示された。その画面をお暁さんに見せる。

「こんな感じであってる?」

「大丈夫だよ。私からして欲しいのはこれぐらいかな。あとは、必要なものはさっきのアプリストアからダウンロードすれば使えるよ。」

「分かった」

 すると、暁さんはあくびをしながら

「今日はもう疲れたから、私はもう寝るね」

 と言った。買い物で相当色んな所をめぐたんだし、僕自身もかなり疲れていた。

「僕ももう寝る」

 暁さんはスマホと単語帳だけを持つと、二階に上がりながら

「それじゃあ、おやすみ」

 と言った。

「おやすみ」

 と言って、僕はスマホを片手に、自分の部屋に入った。

 その後、布団に入りながら色んなアプリをインストールし、色々と使ってみた。意外と自由に使えて、面白かった。パソコンでやっていたゲームやソフト類が、かなり移植されていたので、色々試してみた。さっき買ったイヤホンの接続も確認すると、予想以上にいい音がして、嬉しかった。

 色々と遊んでいたら、睡眠時間が短くなってしまったので、これからは気をつけないと。結局、僕の意識が落ちたのは1時をすぎたあたりだった。

updatedupdated2024-11-072024-11-07