私はただ一人しかいないゼミ室で淡々と数学をやっている。安直にやっていると書いてしまったけど、これを表す言葉っていうのは、なかなか見つからないんだ。勉強しているかといえば、嘘ではないような気もするけれど、学校で教えてもらうようなものとは違う。それに、研究と言ってしまうと、もういなくなってしまった先輩がやっていたようなスマートなものを思い浮かべてしまうから、それも当てはまらなくなってしまう。だから、数学をやっているとしか言えないんだ。 気が付いた広岡さんの家庭教師が始まった次の日も学校はそう変わらなかった。朝、登校した時に畠さんに少し絡まれた程度で、それ以外の厄介ごとは起こらなかった。おかげで、参考書の昨日広岡さんに音読させた部分を読み直す時間も取れた。 普段は窓の外に向かう視線が、今日は自然と広岡さんの背中に向かう。前から2番目の席で畠さんの後ろに座る彼女は窓際の席からでもよく見える。教室ではブレザーを羽織る生徒も増えてきたけれど、広岡さんはブラウスにカーディガンを重ねていた。いつ晴翔の一番の友人で理解者。多分名字は作中に登場していない。 頑張ればちょっとした豪邸が建つぐらいの裕福な家の生まれ。父親が医師だがあまり家に帰ってこないので関わりが少なく、母親とは親しい。 母親がバイオリンやピアノの楽器ができる他、料理もお菓子作りも上手。美雪はそれを真似しようとしている。ただし運動はふたりとも苦手。 将来の夢は父親の後を継ぎたいが、教師も経験したいと思っている。そのため勉強は怠らないし、桃花と晴翔に勉強を教えるのは彼女にとっては一人の家でベッドに入って寝ることにも慣れてしまった。昔はお母さんがいないと寝られなかったのに、今は当然のように熟睡できる。そう思っていた。 美雪の社会の課題が終わってからベッドに入って電気を消した途端、心臓の鼓動が急に早くなった。とっさにスマホを取って俊に電話をしようとして、彼に振られたことを思い出す。 そうだ。最近一人でこの部屋で寝られるようになったのは俊と寝落ちで電話をしていたり、遊んでいたからだった。それまではまともに値付けないことなんて「ちょっと、聞いてる?」 いきなり耳元で響いた桃花の声に驚かされる。 「そんな大きな声出さなくたって聞こえるってば…」 私の返答に、ため息一つ返す桃花。聞いてなかった私が悪いんだろうけどさ。 「そういえば、最近の晴翔はボーっとしてることが多いわね。口を開けば部活の話ばかりだし」 「そうかな」 「そうだよ。文化祭以来、口を開けば俊君やら大祐君やら。まあ部活でうまくいってるならいいんだけど」 ややぶっきらぼうに言い切る桃花。私が部活でうまくいっ