始まりは唐突に

僕はいま、入院している。遺伝性のマルファン症候群の一つである、大動脈解離という難しい心臓病のせいだ。中学三年の中盤の頃、別の理由で定期検診を受けに行った際に、医師の気まぐれで検査を受けて見つかった。 しかも、症状は少し進んでいて、その時から、安静にと言われていた。しかし、医師の言うことを聞かず、運動していたら、危険値に達してしまった。 それでも、手術だけは断り続けた。自分の体を人にこじ開けられて、改造されるのが嫌だったからだ。普段は、#我儘__

情報を求めて

ノックされたとの報を見ながら、その奥にいる人物を予想した。この家にいるのはたった三人なんだから、二択しかない。しかも、僕の部屋に入ってくるような人物はあの人だろう。そう思って、僕は戸を開けた。 僕の予想とは裏腹に、ドアの奥に立っていたのは椿姫ではなかった。 「翔、ちょっとしたの部屋に降りてこれる?少し話がしたいのだけれど」 暗がりに映る小百合さんはいつも以上にきれいに見える。京町美人のような風貌が感じられる。 僕は驚生きながらも、小百合さんに言われ

人のふり見て…

次の日。僕は、自分の体調があまりすぐれないので、病院に向かった。今日は、学校帰りだったけど、暁さんはついてきていない。いつもなら一緒に行くところだけど、今日は僕の診察だけの予定だから、先に帰ってもらったんだ。 今日は雨がずっと降っていて、とても憂鬱な気分だった。雨のせいで、数十メートル先さえもまともに視認できない。梅雨の中でも、かなり強い雨で、傘がいまにも手から落ちそうなほどだった。雨の少し酸味のある匂いが空気を汚染していて、薄暗い気持ちに拍

同居人の非日常

「椿姫、こんな時間にどうしたんだい?」 「ちょっと話したいことがあるので、私の部屋に来てもらえませんか」 そういった彼女の顔は、ひどく落ち込んだ様子だった。立ち話で詮索していい内容じゃないと思い、誘われるがままに椿姫の部屋に入る。 女の子の部屋。まさにその言葉を体現するような内装だ。若葉を象徴するような緑の明るいカーテン、切れに整理整頓され使いやすくされた机と本棚、かわいらしい模様のベッドシーツ、そしてなにより、ベッドの上で寝ているカワウソのぬい

病院のバレンタイン

新しい朝は、眩しい朝日と共に始まった 「眩しっ」 思わずそんな言葉が口からこぼれた。まぶたを閉じていてもわかるほどに、眩しい紫外線が眼球を貫く。二度寝を諦めて起きてスマホの時計を眺めると、もう8時になっていた。窓の外では日が少し上がってきていた。 「もうこんな時間か」 もう少し部屋に粘ってから、下の階に降りようと思っていたけど、 「朝ごはん食べちゃうよ~」 と、下から呑気そうな声が響いたから、さっさと朝ご飯を食べに降りることにした。 スマホの時計の上のカ