エピローグ

あれから、数分後。私は、彼のことを病院に届けた。その時、先生がいつになくうれしそうにしていたのをよく覚えている。先生曰く 「蓮君は優しい人だったんだけど、不幸が大きすぎたんです。ですから、最後の最後に、君を幸せにできて、うれしかったと思いますよ」 確かに、蓮の周りには不幸なことが多すぎた。自分の病気に、両親の突然の死。私たちには計り知れない、つらさがあったと思う。それ故なのか、彼は頑張っていた。 彼のことを、一時保管室に送り届けるまで、見送った後

はじめの一歩

さて、どうしたものか。 小児病棟とはいえど、重症な人が集まる場所に僕はいるのだ。だから、看護師や医者の目を盗んで、#容易__たやす__#く抜け出せるはずがない。逃げ出したり、暴れないようにするために、常に看護師が一人いるのだ。常に病棟のどこかにいて、すぐに駆けつけてくる監視役が。 とはいえ、看護師もいなくなるタイミングがある。それは、その看護師が検診の後に、データを本棟にいる医師に持っていく時だけ。それに、小児病棟は、本病院とは離れているため、

関わりたくない過去

二週間ぶりに病院に向かいながら考える。そういえば、僕の寿命は予定ならあと一週間と少しのはずだ。そもそも僕自身はその現実からずっと目をそらして生きてきた。本当にこのまま死ぬのか不思議なぐらいだった。 いや、強がってもいられないんだろうな。事実、僕は体調が悪化している兆候は何回も感じていた。ただ、僕自身がほとんど動く人間ではなかったので、体に負荷がかかることがなかったからその兆候が表れにくかっただけなんだ。 今の僕にはこのかばんはちょっと重すぎた。

嫌いな人

ブログを書き終えてパソコンを閉じ、もう一度さっきまで説いていた問題を思い出す。なんとなく解き方が思いついて解き始めようとしたとき こんこん ノックの音が部屋の中に響いた。この部屋は僕の部屋だから、朴以外の来客ではないのは確かだ。それでも僕は何かの間違いだと信じたが、むなしくも 「久しぶりだな、翔」 大嫌いな奴が扉から顔を出した。 寝てるふりをしたら帰ってくれないかと思い、ベッドに寝てみたが 「実の父親が来たのに狸寝入りなんてよくないぞ。ほら」 と言って起

始まりは唐突に

僕はいま、入院している。遺伝性のマルファン症候群の一つである、大動脈解離という難しい心臓病のせいだ。中学三年の中盤の頃、別の理由で定期検診を受けに行った際に、医師の気まぐれで検査を受けて見つかった。 しかも、症状は少し進んでいて、その時から、安静にと言われていた。しかし、医師の言うことを聞かず、運動していたら、危険値に達してしまった。 それでも、手術だけは断り続けた。自分の体を人にこじ開けられて、改造されるのが嫌だったからだ。普段は、#我儘__