僕が矢田部家に居候させてもらい始めてから一週間がたった。僕の生活は少しずつ落ち着いてきた。矢田部家に居候する上での条件も少し変わって、多少のお金を払いながら居候させてもらうことになった。無償で住まわせてもらうのは悪いので、僕が小百合さんにお願いして少額ながら受け取ってもらうことにした。 とはいっても僕の口座と財布の中身を合わせると、あと290万円以上残っている。いったいこのお金をどう使おうかと、毎日悩んでいるけれど、いい答えは浮かばない。お母
実は、このところテスト勉強のために彼方になかなか会いに行けなかったんだ。ようやくテストも終わって、二人で彼方に会えることをいつも以上に楽しみにしていた楽しみにしていた。 病院の玄関前の花壇では、梅雨時期に合わせて紫陽花が見ごろを迎えていた。美しい紫と青の広がりを見ていたら、時間が過ぎたのだと悟った。彼方に頼まれて、暁さんを幸せにするという目標ができてから、五カ月以上がたったのだ。あのときに咲いていたのは椿の花ぐらいだったかな。裏口から出ちゃっ
「痛っ!!」 胸を突き刺すような痛みで目が覚めた。そして、辺りを見回して驚いた。 そこは、病院だったのだ。それも、これまで僕と彼方が二人でいた共同病室ではなく、この間彼方がいた個室の病室だった。そして、僕の腕には三本の点滴が打たれていた。腕の先にある手は、かすかに濡れていた。 時計を見ると、夜の七時前だった。そして、日にちは7月7日だった。 思考の処理が追いつかないうちに、新しい情報がどんどん出てくる。ちょっと落ち着いて、情報を処理を試みる。 僕はあ
椿姫の事情を知った日から数日が経過していた。あれから僕らは目立ったことはしなかったけれども、毎晩お茶会と称して紅茶を飲みながら勉強や家族のことを話し合った。お互いのことを打ち明けているので、かなり気楽に話ができるようになったけど、小百合さんの前で仲がいいことを見せないように、二人で注意していた。 椿姫の勉強も僕の勉強もある程度順調に進んでいた。特に椿姫の勉強については、問題集を変えたからか、難しい問題に対して様々な手段を用いて解こうとする姿勢
桜舞う小道の下。 「本当に先輩は行ってしまうんですか?」 涙ながらに私は先輩の裾をつかみながら訴えかけた。でも、先輩はただ黙って、私と同じように泣きながらいうのだった。 「僕が僕であるために、僕はもう巣を離れるんだ。もしかしたらまたいつか会えるかもしれないから、その日を待つことにしようよ」 と言い残すと、私の唯一の先輩はゼミ室を出て行ってしまった。そうして、私はこのオイラー部の最後の部員になってしまったんだ。