どうしようかな。 いつもならこんな風に授業を抜け出して部活に来ることなんてないんだけど、今日は禁忌を犯してしまった。なんでこんなことをしているかと言えば、今日雅君に教える内容は、私にとっても教えるのはかなり難しい内容だからだ。正直に言って、私の説明がいつものようにちゃんと伝わるとは思えない。なにせ、今日教えるのは高校の数学でも一二を争う難所の一つ、微分なんだから。 どうやって説明したら彼にちゃんと伝えられるんだろう。簡単な微分だけだったら、彼は
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8 「答えて」 ギターの余韻の後、ささやかな拍手と涙ぐむ声が辺りに小さく広がった。それぞれ持ち寄った椅子、と言ってもプロパンガスボンベだったり家のがれきだったりを持って広場を後にしていった。聴衆が去ると、僕はギターの手入れをしている君に声をかけた。 「そういえば今日はいつもの子来てなかったよね。」 「昨日も空襲があったからな。」 僕のほうは見向きもせずに君は答えた。そして木目がきれいに見えるアコースティックギターをところどころ焦げ付いた黒のケースに入れ
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27 「俺さ、今度入院するんだよね」 私がコーヒーを一口飲み終えた瞬間の彼の発言に耳を疑った。勢いあまってコーヒーカップがソーサーに強く当たって大きな音がしたけど、周りを見渡しても誰もいない。そんな平日の午後の喫茶店でのことだった。 私と彼は今となっては幼馴染と呼べる存在だと思う。小学校のころは同じクラスだったし、お互い家が近いこともあってよく話していた。片方が休んだらプリントや連絡帳を届けたり、学校終わりに互いの家で遊ぶことは日常茶飯事だった。 中学
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8 花火大会 何発も打ち上がる夜空の華は多くの人を魅了する 星ほど高くはないが人よりもはるかに高く弾けた光は平等に喜びを与える そう、誰でも平等に 「どうしてこんな日に限って…」 小言をこぼしながら小さい部屋の隅の収納ケースの一番下から浴衣を引っ張り出す。最後に来たのは五年前、ここに越してくる前の夏祭りだったかな。わざわざ引っ越しの時に持ってきたはいいものの、中学時代のだから少し子供っぽくてなかなか着る機会がなかったんだ。 ぱっと浴衣を羽織っ
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21 君だったらこんな時にどうやって対処したかな。 きっと嘘でも本当でもないことを言って傷つけないように伝えたよね。 今度はきっと僕の晩なんだ。 俺は近郊都市の底辺高校に通っている。そう聞いたらどんな人物を想像するだろうか。暴走族や半グレ、半端物からホスト。俺の学校にもそういったやつはいるし、校内でも名をよく聞くやつらはいるが、俺はそうなれなかった。 本当はちゃんとした高校に通いたかったけど、親が家から一番近い高校にしろというのでここになってしまっただけ