情報を求めて

ノックされたとの報を見ながら、その奥にいる人物を予想した。この家にいるのはたった三人なんだから、二択しかない。しかも、僕の部屋に入ってくるような人物はあの人だろう。そう思って、僕は戸を開けた。 僕の予想とは裏腹に、ドアの奥に立っていたのは椿姫ではなかった。 「翔、ちょっとしたの部屋に降りてこれる?少し話がしたいのだけれど」 暗がりに映る小百合さんはいつも以上にきれいに見える。京町美人のような風貌が感じられる。 僕は驚生きながらも、小百合さんに言われ

人のふり見て…

次の日。僕は、自分の体調があまりすぐれないので、病院に向かった。今日は、学校帰りだったけど、暁さんはついてきていない。いつもなら一緒に行くところだけど、今日は僕の診察だけの予定だから、先に帰ってもらったんだ。 今日は雨がずっと降っていて、とても憂鬱な気分だった。雨のせいで、数十メートル先さえもまともに視認できない。梅雨の中でも、かなり強い雨で、傘がいまにも手から落ちそうなほどだった。雨の少し酸味のある匂いが空気を汚染していて、薄暗い気持ちに拍

同居人の非日常

「椿姫、こんな時間にどうしたんだい?」 「ちょっと話したいことがあるので、私の部屋に来てもらえませんか」 そういった彼女の顔は、ひどく落ち込んだ様子だった。立ち話で詮索していい内容じゃないと思い、誘われるがままに椿姫の部屋に入る。 女の子の部屋。まさにその言葉を体現するような内装だ。若葉を象徴するような緑の明るいカーテン、切れに整理整頓され使いやすくされた机と本棚、かわいらしい模様のベッドシーツ、そしてなにより、ベッドの上で寝ているカワウソのぬい

病院のバレンタイン

新しい朝は、眩しい朝日と共に始まった 「眩しっ」 思わずそんな言葉が口からこぼれた。まぶたを閉じていてもわかるほどに、眩しい紫外線が眼球を貫く。二度寝を諦めて起きてスマホの時計を眺めると、もう8時になっていた。窓の外では日が少し上がってきていた。 「もうこんな時間か」 もう少し部屋に粘ってから、下の階に降りようと思っていたけど、 「朝ごはん食べちゃうよ~」 と、下から呑気そうな声が響いたから、さっさと朝ご飯を食べに降りることにした。 スマホの時計の上のカ

始まりが大切

私はただ一人しかいないゼミ室で淡々と数学をやっている。安直にやっていると書いてしまったけど、これを表す言葉っていうのは、なかなか見つからないんだ。勉強しているかといえば、嘘ではないような気もするけれど、学校で教えてもらうようなものとは違う。それに、研究と言ってしまうと、もういなくなってしまった先輩がやっていたようなスマートなものを思い浮かべてしまうから、それも当てはまらなくなってしまう。だから、数学をやっているとしか言えないんだ。 気が付いた