「……本当にヤチヨはいいんだね?」 「もちろん。ヤチヨが望んだことだから。」 ヤチヨのポーズに合わせて完成したばかりの義体が軋んだ。多分右足の関節かな。登山の前に1回メンテナンスが必要そうだ。 「もちろんかぐやもついてくよ!」 「でしょうね。そしたら、二人とも明日は早いんだからね。」 そう告げて私は二人をおいて寝室に向かうと、枕元に並んだ3つの大きなリュックの中身をもう一度確認した。かぐやのリュックには潤滑油と応急電源と簡小道に面したレコードに収録されていそうな音楽が流れるカフェで、黒瀬さんと向かい合ってメニューを眺めている。外では相変わらず神様が機嫌を損ねたみたいな大雨が続いていて、窓に当たる雨粒の音がドラムロールみたいに聞こえる。足から天板まで木目を感じさせるような木のテーブルとイスに、壁際には本棚やラックがあって店主さんの好みを感じさせる雑誌や実用書が並んでいる。入口のそばの窓際に座る私たちのほかには、店の奥のほうにお母さんくらいの世代の女性が二人、派喉の渇きで目が覚めた。照明は小さな部屋を煌々と照らしているけれど、カーテンの隙間から見る世界は闇に包まれている。額にぬるりとした接着感と妙な冷感がある。腕の中のカワウソがもう少し寝ない? と誘うような顔をしている。 ぱっとしない頭に文句を言いつつ、何があったか必死に思いだす。寝坊してお昼ご飯が食べられないまま家に帰ってきて、広岡さんに勉強を教えて休憩の時に倒れて。そのあとのことはよく思い出せない。掛け布団をたたむようにどかすと、その下から真新し「ちょっと、黒瀬さん!」 急にちゃぶ台の上に突っ伏した黒瀬さんにいくら声をかけても返事がない。最初は悪ふざけかと思ったけど、聞こえてくる呼吸は荒かった。あとで怒られるかもと思いながら黒瀬さんの手に触れると、幼い子供の手のような温かさを感じた。まさかと思って左手は私の、右手は黒瀬さんの額に触れると、右手だけ熱くしっとりと湿っていた。 こんな状態で勉強を教えてくれていたことへの申し訳なさと、病人を放っておけないという気持ちが黒瀬さんの体をベッドまで「それで、さやは広岡さんのことどう思ったの?」 いつものように昼休みに私の教室に来て、お弁当のブロッコリーを方ばっているさやに聞いた。もとはといえばこの前の広岡さんに教えるときにさやが参加したのは、広岡さんがどんな人なのか知りたいといったからだった。 「まあ、悪い人って感じじゃないんだけどね。私はちょっと苦手かな。」 さやがらしくもなく少し渋い表情を作って見せた。どんなところが苦手か聞いても、よくわからないという答えだった。 「思ったより根はまじめ